ライブのおはなし
2024年11月3日、文化の日に開催された第八回ライブ「バー愛読書綺譚」は、これまでの物語を根底から揺るがす、画期的な構成で観客を驚かせた。舞台は昭和の中学校から、現代の「Bar愛読書」へ。29歳になった主人公・宮野くんが、封印していた中学時代の記憶と対峙させられる、という新たな物語の幕開けとなった。
ライブは、壁一面の本棚に囲まれた不思議なバーで、新キャラクターであるバーテン(ピアニスト:イシヅヤシン)が奏でる「愛読書へようこそ」で静かに始まった。「こころの奥に眠る一節を、いま、解き放つ」という彼の言葉通り、この店は客の記憶を呼び覚ます特別な場所であることが示唆される。
そこへ、今や立派な社会人となった29歳の宮野くんが来店。彼は、店の「貸出カード会員募集中」の貼り紙に応えるかのように、おずおずと一枚のボロボロになった中学校時代の貸出カードをバーテンに差し出す。そのカードを見たバーテンは、彼が同じ若葉第一中学校の後輩であることを明かしつつ、意味深なピアノを奏で始める。その音色に導かれるように、宮野くんは自分でも忘れていた中学時代の思い出を、ぽつりぽつりと語り始めた。彼の回想は、まず図書委員のあのこが作っていた「秋のしおり」と、彼女のおすすめだった「世界の詩集」から始まる。そして、本が苦手だった家庭環境(「本はにがて」)にもかかわらず、図書室の窓越しに彼女を見つけた春の日(「それだけなのに」)へと遡っていく。彼女の圧倒的な本への愛(「本が好き」)と、そんな彼女に近づくため、宮野くんが図書室を覗き見るようになった経緯(「踊り場でシャドウ」)が、彼の口から次々と語られた。
宮野くんの記憶が深まるにつれ、バーテンと図書委員(宮野くんの記憶のイメージとして登場)は、物語の鍵である「しろいみみ」を装着。宮野くんは、それがかつて彼女がつけていたもの、そして読書好きの祖母がつけていた頭巾とそっくりであることに驚愕する。バーテンも参加しての「しろくま宣言」や「私は誰より図書委員」が披露されると、物語はさらに核心へ。宮野くんの回想は、彼女に近づくための数々の不器用な試みへと続く。図書室への初潜入(「はじめまして」)、そして図書室の扉の前で彼女に名前を呼ばれ、パニックになって逃げ出してしまった出来事(「すれちがいの図書室」)が、カラオケバージョンという新たな演出で披露された。
キャラ解放タイムを挟み、ライブはクライマックスへ。再びバーテンのピアノが、宮野くんの記憶をさらに引き出す。彼は、消しゴムをわざと落として彼女の気を引こうとした作戦(「ころがる消しゴムのように」)や、最終的には彼女と話すきっかけを作るため、自ら詩作にまで至ったことを告白する。「世界の詩集」に、野球のことばかり書いた自作の詩を、サイン「Km」を入れて挟み続けたことまで語ってしまった宮野くん。その時、バーテンは店の本棚から一冊の本を取り出し、中から古びたメモの束を取り出した。それは、若葉一中図書委員会に代々「キロメートルの世界」として伝わる、例の自作の詩だった。
バーテンは、そのメモのサイン「Km」が宮野馨のイニシャルではないかと指摘。図書委員は本の扱いについて「絶対禁止」と怒りを表明する。そして「本の住所」の間奏で、ついに宮野くんは自分が「キロメートルの世界」の犯人だと認める。「忘れていたのに」と動揺する彼に、バーテンは全てを知っていたかのような笑みを浮かべる。封印していた過去の真実と対峙させられた宮野くんの戸惑いと、謎めいたバーテンの存在が、物語の新たな局面を告げた。最後は、過去を振り返る新曲「あの季節の図書室に」が切なく響き、美しい余韻を残して幕を閉じた。
これまでの物語を、大人になった主人公の視点から俯瞰し、新たな謎と設定を提示した「バー愛読書綺譚」。それは、しろくま図書委員会の物語が、単なる中学生の思い出話ではなく、時間を超えて続く普遍的な物語であることを証明する、見事なステージだった。